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補陀楽の少年 (9) ~夢の宮補遺集~

2010.09.24【 補陀楽の少年

 「恋、ですか。慈愛、慈悲ではなく」「『悲』の原意は呻きであって、苦しみに嘆き悲しみに共感することをさすのだよ。それが菩薩の役割」 六世はそこで、顔をあげて続けた。「けれど、祈りは、まるで絶対に手に入らぬものを恋い慕う絶望のなかのかすかな希望に似ている。ありもしない救いの時を待ち、一心不乱に身を投げ出す信者の姿には、ただひとえに『悲』を恋うるものの哀しみを感じる」 かもしれない、とテンジンは思った。...全文を読む

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補陀楽の少年 (8) ~夢の宮補遺集~

2010.09.24【 補陀楽の少年

  見上げる空は、それでも青い。 無量の太陽の輝きに雪山の頂はその光を弾いてきらめき、ポタラ宮の金屋根をさらに輝かしいものにする。黄金と宝玉、目も眩むほどの極彩色にいろどられたポタラ宮は空に浮かぶ。 「やはり、ここにおいでだ」 テンジンの屈託のない、それでも少しだけ遠慮がちの声が風に運ばれた。「猊下、隠れんぼは苦手ですね」 黄色い花畑では、六世の法衣は目立ちすぎる。風に揺られた黄緑色の茎と葉は、独特...全文を読む

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補陀楽の少年 (7) ~夢の宮補遺集~

2010.09.24【 補陀楽の少年

 「大摂政殿」 室内の奥から響いたその声は、テンジンの聞き慣れたツァンヤン・ギャムツォのものではなかった。微笑をうかべて彼を見つめる青年のものとは思えないくらい厳しい声に、少年は知らず足音をしのばせていた。そのまま壁に背をついて足を止める。立ち聞くような姿勢に躊躇したが、早鐘をうつ鼓動と足の震えがそれ以上先へと彼を進ませはしないのだ。「私が五世の転生者ではないように、貴方も徳高い高僧ではないのです」...全文を読む

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補陀楽の少年 (6) ~夢の宮補遺集~

2010.09.24【 補陀楽の少年

  テンジンは参礼者にまじって五体投地をくりかえしている。両腕を頭上に掲げ、身を投げだし、立ち上がり、祈り、そしてまた身を投げ出す。進むのは、投げ出した身体の分だけである。 巡礼の徒は衣服をぼろぼろにし、その膝と肘を擦り傷でいっぱいにしてこの神の地、ラサへとやってくるのだ。そうしてここに着いても、五体投地をくりかえす。 敬虔な彼らは何千里もの道をそうして進んできたのだ。大地にぬかずき、額に堅い土を感...全文を読む

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補陀楽の少年 (5) ~夢の宮補遺集~

2010.09.24【 補陀楽の少年

  チベットの歴史は古い。彼らチベット人の祖となる猿に生命をあたえたのも観世音菩薩であると信じられていた。この地では、人は菩薩の慈悲のもと生まれたのだ。 この天空の神秘なる仏教王国は幾多の不可思議なめぐり合わせの上に成り立ってきた。七世紀にソンツェン・ガムポ王が仏教への信仰にあつい唐の文成公主を妃に迎え、その影響を受けた吐蕃王朝を生んだ。それ以降、幾度かの分裂の危機を切り抜け、他国の侵攻を退けながら...全文を読む

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補陀楽の少年 (4) ~夢の宮補遺集~

2010.09.24【 補陀楽の少年

  十七世紀において、ポタラ宮は東洋一の美を結集した場所だった。壁面は色鮮やかな絵巻物として歴史を物語り、床には天上の花を散らしたかのような絨緞がひかれていた。 モンゴルの財政的寄与を受け、五十年もの月日をかけて天空の地に巨大な宮殿をつくりあげた。チベットだけでなく、ネパール、カシミールなどからも職人が訪れて法王の住処を豪華絢爛に彩ったのだ。室内の調度のすべてが並のものではない。玉でできた器や杯。黄...全文を読む

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補陀楽の少年 (3) ~夢の宮補遺集~

2010.09.24【 補陀楽の少年

  テンジンはラサ市街の裕福な商家に生まれた。彼の父は清国から美しい絹織物を運び、ポタラ宮に納めていた。母は清国のひとで、いつも綺麗に髪を結いこざっぱりした服を着て、天女のようにも思えたものだ。 ところが彼が十歳になった年、清国から帰る途中に父親が盗賊に襲われた。積み荷をすべて奪われたうえ父は生きて戻ってこなかった。また、一緒にいた兄のツァンヤンはその時の怪我がもとで亡くなった。母も兄を看取ると、ふ...全文を読む

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補陀楽の少年 (2) ~夢の宮補遺集~

2010.09.24【 補陀楽の少年

 「あの、なにか御用があったのでは」「私の大の苦手な大摂政殿が私を探しているらしいので、どこか身を隠すところを探しているのだよ」「サンギィエー殿下が」 テンジンは、そっとあたりを窺うようにして野原を見渡した。 偉大なダライ・ラマ五世に仕え、五世とともにこのチベットに絢爛たる仏教王国を築いたサンギィエー・ギャムツォ大摂政。彼は五世の絶大な権力を象徴し、その霊廟でもあるポタラ宮を建造した。その偉業は過去...全文を読む

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補陀楽の少年 (1) ~夢の宮補遺集~

2010.09.24【 補陀楽の少年

  はじまる――少年は口角の切れた唇からほそい息をついだ。この一瞬のために、朝の勤行をさぼって抜け出してきたのだ。 うす闇のなか目をこすってそちらを仰ぎ見た瞬間、きらりと白銀の戴きが光り、目を焼くような輝きが青闇を切り裂いた。つづいて尾根をなめるように、太陽の狂おしい光がその形を照らしだす。どうにか瞬きをこらえると、それまでのよわい反射と違う、目を細めるほどの光がつぎつぎに弾かれる。それは、宮殿の屋根...全文を読む

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Author:磯崎愛
「おはなし」を食べて生きてます。たぶん(笑)。

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