唐草銀河

「『歓びの野は死の色す』外伝」
面食い

面食い 

   その夜、あたしはオルフェ殿下に会いにいくようエリスに頼まれた。

「アレクサンドラ姫、ひとつ言い足しておくが……」
「なに?」
「オルフェは手が早い。つまりな、コレと思った男も女も手当たりしだいなのだ」

 エリスの形のいい眉が寄せられていた。どうやらそれを恥ずかしく思ってるみたいだった。
 でも、次期領主ともなれば愛人がいてもおかしくはない。しかも、噂ではとんでもなく美形だという話だから、そんなものだと思う。
 それに、あたしは女戦士だから、美女とみまがうほどの優男だと噂の相手に身の危険は感じない。
 そう言い返そうとしたところで、エリスがため息とともに口にした。

「おれが心配してるのは、そなたがぽおっとならぬかどうかでな」
「エリス、あたしを何だと思ってるの?」
「面食い」
「エ~リ~ス~!!」

 エリスは片肘をかかえて頤に指をあてながら、次々と、黄金宮殿にいたころあたしが熱をあげていた人物の名前を唱えはじめた。

「やだっ、なんでそんなに知ってるの?」
「おれの情報網を甘くみるなよ」

 唇を半月にして笑われていた。あたしが頬を膨らましたとたん、

「それでも一応、好みらしいものはあるのだな」
「あるよっ、美形ならなんでもいいってわけじゃないの!」
「で、誰がいちばんなのだ?」

 あたしは口をつぐんだ。

「サンドラ?」
「なんでエリスに教えなきゃなんないのよ?」
「参考までにな」
「なんの参考よ!?」
「そなたの将来を含め、いろいろだよ」

 腕をくんでこたえたその顔は、意外なほど真剣だった。
 あああ。
 エリスって意地悪だけど、やさしい。いつだって、あたしのことを考えてくれている。あたしはこのやり方に、いつも手もなくやられてしまう。

「どうせそなたのことだ、今あげたなかには本命はおらんのだろうさ」

 見破られてるし。

「エリスが一番好きよ」
「それは、おれの顔が好きなのだろう?」

 そのとおり。
 エリスの顔が好き。顔だけじゃなくて、エリスの姿がいちばん好き。エリスが綺麗な服をきてるともっと好き。
 エリスの、血が通っていると思えないほど冷たそうな白い肌、長い睫が陰を落とす瞳の呑みこまれそうな闇色、雪の上に落ちた血にも似た紅い唇……。
 うっとりと目を細めてその顔を眺めていたら、

「《死神トト》はやめておけ」

 あたしが表情を変えなかったことで、エリスはもう一度、くりかえした。

「サルヴァトーレはよせ」
「エリス」
「なんだ」
「よせと言われてやめられるような恋をして何になるの?」

 あたしの精一杯の虚勢に、エリスは艶やかに微笑してこたえた。

「大人のような口をきくようになって」
「エリス!」
「ふられたのだろう?」

 さりげない問い返し。つまり、あたしはエリスに最大限に気をつかわれていた。

「悪い?」
「否、上々だ」
「なぜ」
「あの男にしては、まともな選択だからさ」
「どういう意味よ?」

 腹の底から出た声に、エリスが淡々とこたえた。

「そなたを利用しなかったのだからな」

 あたしはふうっと息を吐いた。
 やっぱり、エリスにはかなわないな。
 あたしがサルヴァトーレに利用されてもいいと思ったことまでも見抜かれていた。
 でも、たぶん、エリスのいうとおり。
 ふられて、よかったのだ。

 《死神トト》と呼ばれていた男はあたしの教師だった。
 そして、自分の研究のために必要な身分や地位、または金銭を欲していた。
 それから、彼がほんとうは誰を好きだったのかもあたしは知ってるけど、それはエリスにだけは言わないと決めていた。
 それが、あたしのちっぽけな誇り。

「それにしても」

 と、エリスがちらりとあたしを見た。

「おれの顔が好きだとなると、やはりオルフェと会わせるのは考えものだな」
「エリス、あたしを本当になんだと思ってるのっ!?」
「やたら惚れっぽい面食いだ」

 エリスはそう遠慮なしに事実を述べ、こぶしを振りあげたあたしを見て高々と喉をそらして笑った。

 今にして思えば、そのときのあたしにはなんの予感もなかったけれど、エリスはきっと、感づいていたのだろう――再会と別離の不思議のなにもかもを。

スポンサーサイト



*Edit ▽TB[0]▽CO[2]   

~ Comment ~

この二人の関係はホッとする 

この世界で、この二人はものすごくまっとうで、マトモ(?)で、ここで、ようやく息がつける気がする。

女同士のこういう爽やかで軽やかで、深い愛情は良いな。
そして、エリス姫に、そういう相手がいたことが嬉しい。

孤独だったとは思わないけど、覚悟はとっくにあったと思うけど、こういう関係性を築ける余裕があったことを、心から安堵する。

うう、気になるなぁ、続き・・・

Re: この二人の関係はホッとする 

お返事遅くなってすみません><

わたしもほっとします(笑

> この世界で、この二人はものすごくまっとうで、マトモ(?)で、ここで、ようやく息がつける気がする。

そうですよねー
なんていうか、世界観自体が厳しいうえにみんな厄介なひとたちだし(苦笑)
>
> 女同士のこういう爽やかで軽やかで、深い愛情は良いな。
> そして、エリス姫に、そういう相手がいたことが嬉しい。

はい

> 孤独だったとは思わないけど、覚悟はとっくにあったと思うけど、こういう関係性を築ける余裕があったことを、心から安堵する。

fateさん、あいかわらず深い言葉を記してくださるなあ
エリスの過酷な運命のなかにあって、たしかにアレクサンドラ姫はある種のオアシスというか、それが枷になる部分もあっただろうけど、でも、想いが通じ合う相手ですよね

>
> うう、気になるなぁ、続き・・・

あーーーーー><
ごめんなさい、ごめんなさいーーーーー、うひーーーー
がんばります!!!
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)