唐草銀河

「遍愛日記」
審判の日 告解

審判の日 告解 (189)

   私が言葉につまると、浅倉くんはもうあからさまに不満を曝け出して唇をまげた。
その一方、さいしょからこたえないことくらい予期していたという顔で、ミズキさんは冴えた笑みをたたえて長い睫を伏せた。こういうのは本当に気障で、凄まじく嫌みったらしい。そして、わたしがそれに反撥をおぼえるのをわかってて、してる。
 そうして私がただふたりを交互に見るだけで何も言わないと知ると、今度は浅倉くんがミズキさんへと言葉を返す。
「自分のほうが理解してるから相応しいとでも言うつもりかよ」
「まさか」
 大仰なそぶりで首をふり、彼は私を見おろした。
「恋愛と、知性や理性は不仲なものと決まってるよ。僕はちっとも姫香ちゃんのことはわからない。謎だらけ」
 浅倉くんがそのことばに振り回されず、ちゃんと自分の質問の意図をくりかえした。
「じゃあなんで、おまえが言えるんだよ」
「さっき聞いたから」
 ミズキさんは真顔で続けた。
「はじめは浅倉と僕に仲良くして欲しい、ついでにゴタゴタは自分に見せるな。さらに三人の関係をリセットして白紙に戻したい」
 たしかに言った記憶がある。
 そこで彼は私を眼のなかに置き据える様子でいったん言葉をとめた。私がその言葉をしっかりと覚えていると確かめられていた。視線に縫いとめられるというアレは、こういうときに使う言葉かもしれない。反応をいちいち掬われるのは堪らないし、息継ぎの間合いを計られすぎているが、まあしょうがない。これがミズキさんのやり方だ。今まで彼が奥ゆかしく私を不愉快にしないよう控えてきたことを大っぴらにやられてるだけ。我慢するしかない。
「たぶんここまでは浅倉だって知ってるし、呆れながらも納得しないわけでもないってところかな」
 同意を求められたものの浅倉くんは表情を変えず、私だけを見ていた。それは、こいつの言ってることほんとに合ってる? という確認の目線で、私は居心地の悪さに呻きそうになりながら、とりあえずは承認のためにわずかに頤をひいた。
 それをみとめたミズキさんが息を吸いこむようにして続けた。
「ここからが本番。浅倉にも僕にも、お互いを見るんじゃなくて、自分だけを」
「ミズキさん!」
 大声で名前を呼んで止めようとすると、彼はすこし首をひねり、息だけで笑った。様になりすぎて気障を通り越した嫌味にしか受け取れない。
「私、そんなこと言ってないじゃない」
「言ってるよ。僕が浅倉を気にしながら君を好きだというのが不満だって、浅倉が君をとられたくなくて僕を手懐けようとしたのが気に入らないって、さっき自分で言った」
 私が睨みつけても怯むようすはない。逆に、
「自分だけを見て愛してくれてないのが不満だって、君、さいしょから思ってたでしょう」
 こともなげにミズキさんが言い切った。
 反論するとしたら、どう言えばいいか必死で考えて、瞬時に返せないようなら論破することは難しいと察し息を詰めると。
「オレ……」
 視線をしたにむけて、浅倉くんが何かつぶやいた。彼を見やると、ミズキさんがこちらを気にする風情で頤をそらして告げた。
「ねえ姫香ちゃん、浅倉にさっきみたいな顔で見つめられてたら、そりゃあ驕慢にもなって当然だよ」
「ミズキさんっ」
 彼は私の怒り声を傲然と無視して続けた。
「浅倉、あれはダメだよ。僕、ちょっとカンドウしてしまったじゃないか」
「おまえ、ふざけるのもいいかげんにしろよ」
 低い声で凄まれても、ミズキさんは独特の笑みをたたえて彼を眺めている。動じないどころではない。
「あんまりかわいいんで、浅倉に乗り換えたくなったくらい」
 意味を判じかねたのは一瞬で、浅倉くんは相手の真意をたしかめようと眉を寄せて見つめ返す。可愛いと言われてキレるかと思いきや、意外に冷静で怖くなる。
 これ、もしかして、この調子でずっと続くわけ? だとしたら私、耐えられないよ。
 そう感じた瞬間、ミズキさんの視線が頬のあたりをかすめた。彼はたぶん、私の緊張が続かないことに気づいたに違いない。
「なにしろ姫香ちゃんには泣き落としも通じないし脅してもすかしても褒めてもけなしてもなにしても、ダメなんだよね。いったいどうやって口説き落としたのか教えてよ」
「ミズキさん!」
 拳を握って声をあげると、浅倉くんがこちらをむいてから口にした。
「ミズキ、嫌がってるよ」
「ああ、この程度は平気でしょう。泣かしてもちっとも挫けないし」
「泣いてからあとが、手強いんだよ」
 浅倉くんが複雑な顔でこたえた。
「そこから先が本性だからね」
 互いにうなずきあいそうな雰囲気だった。
「ちょっと、なんでそこで同調してるのよ!」
 すると、ミズキさんが眉をひらいて問うてきた。
「僕たち二人に仲良くしてもらいたかったんじゃないの?」
「そういう意味じゃないでしょう! 私抜きで仲良くしてよ」
 それには浅倉くんが杖を斜めに倒して、机に寄りかかるようにしてこたえた。
「仲良くって……あんたがいるから、怖がらせたり傷つけたくないから、必死で我慢してるんじゃん」
「ウソ……」
 いや、ウソではないのは始めのときでわかってるけど。でも。
「なんで、来ちゃうんだよ。こいつの思うとおりになってどうすんだよ。あんな電話の切り方、来てくれって言ってるようなもんなのに、それくらいの誘いかけ、当然わかってるかと思ってたのに……」
 ミズキさんは黙ったままだ。 
 そして私はというと、なるほど、ちょっと冷静になっていた。まんまと誘導されたのだと言われればその通り。しかも、
「姫香ちゃんは、呼ぶと意地でも来ないけど、呼ばないと近寄ってくるそれは立派な天邪鬼なんだよ」
 と、解説されていた。あまりな言い分に反論しようとすると、真剣な声に遮られた。
「だから僕たち二人して惨敗なんだよ。こんなに夢中になってしまった時点でもう、敗者の烙印を押されて打ち捨てられる運命が決まったようなものだ」
「ミズキさん、その言い方って」
「酷くない。天使のお迎えが来たら行くだなんて言えるのは、それだけ想いを残してないってことだ。僕なら、好きなひとを置いて遠くに行けない」
 言い訳をしようとする前に、浅倉くんのストップが入った。
「何だよ、それ」
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