唐草銀河

「遍愛日記」
審判の日 告解

審判の日 告解 (195)

   そうして力の抜けた私を通り越し、焦れて熱をもち尖りすぎた追求が浅倉くんにぶつかった。 
「姫香ちゃんはともかく、浅倉は僕と彼女がどうしてたか気にならないはずはないよ」
「だからおまえ」
「僕はすごく気になる。気になるというより見てみたい」
 見てみたい。って、そこまで言う?
 私は立っていられなくて椅子の背に手をついた。だめだ。これは、もう、私が何をいっても無駄なところにきてしまった。悲しいことに、それだけは理解できた。こうなったらこのひとは押しとどめられない。
「ミズキ」
 浅倉くんが、掠れ声で名前を呼んだ。けれど、そんなことでは止められない。止まるはずもない。
「それだけじゃなくて僕は浅倉に僕に抱かれてる姫香ちゃんを見てもらいたい」
 ミズキさん、絶対、壊れてる。
 コワレテル。
 否。
 これが彼の「正常」なのだ。
 きっと。
 だから……。
 私はソレを知っていたはずだ。聞かされていた。あの不穏な言葉を。
 おぼえてる。憶えている。私はちゃんと、ソレを思い出せた。

「ミズキさんはけっきょく、どうしたいわけ?」
「何もかも欲しいっていうのじゃ答えになっていないかな」
「何もかもって、なに」
「たぶん、君が想像している以上のこと」
 

 忘れたふりをしたのは、怖かったからだ。私は予感していた。
 逃げたのは、ソレもある。
 ドウシヨウ……ドウシヨウどうしたら……。
 たぶん、私はそこにしゃがみこんだのだと思う。でも実際は、ミズキさんに腕をとられて支えられた。
 浅倉くんの怒声が鼓膜を震わせる。
 うるさい。怒鳴らないで。
 そう言いたいのに言えず、私はふらふらと椅子の背をぎゅうっとつかんだ。そのままミズキさんはすぐに私を椅子に座らせた。目がまわって気持ち悪い。本格的な眩暈と過呼吸の発作の前触れだと気がついた。
「センパイ? だ、だいじょぶですかっ」
 悲鳴のようだった。肩を抱かれたけど、焦点が合わない。ていうか、揺らさないでよっ!
「やっ……」
 私の拒絶に浅倉くんは火傷でもしたかのように手をひっこめた。それでも視界は定まらない。頭のすぐ後ろあたりに地面がある気がした。荒れた、忙しない呼吸に喉から鎖骨、横隔膜まで小刻みに震えているみたいだ。
 こわい。
 すると、ミズキさんの掌がやわらかく口を覆って私の呼気を制御した。それからゆっくりと首の後ろに手がおりてきて、後頭部から肩へ、背筋を撫で下ろした。心地よかった。両耳を温めるようにくるまれるのも、気持ちのいいことだった。 
 私の呼吸がゆるやかになると、浅倉くんが尖った声で文句をいった。
「おまえ、この人に無茶するなよ」
「無茶はしてない。彼女は僕の言うことくらい予測していたよ。ショックなのは、浅倉、キミにそれを聞かせたくなかったからだ。姫香ちゃんに庇われたんだよ」
「ミズキ」
 ミズキさんは浅倉くんのほうを見ず、私へと顔をむけた。
「ねえ姫香ちゃん、君は浅倉を突き落とした僕を心配し、今また浅倉を守ろうとしてる。でもね、ひとりでそんなことをするのは無謀だし、その優しさと強さは僕たちを付け上がらせるだけだよ。僕たちは君に酷いことをした。君も同じことを仕返せばいい。どちらにも嫌な思いをさせるなら、両方とるべきだ。僕は君に三人で寝たいとは言わないよ。君にはどだい無理な話だしそんなことを望んでいないってわかってる。まして浅倉も我慢できないだろうからね。ただし、僕から逃げられるとは思わないほうがいい」
「……仕返しするならどっちも要らないが正解じゃないの?」
「姫香ちゃん、君が本気で僕と浅倉から逃げたいと思っているなら、僕たちは君に追いつけない。僕にも、浅倉にも、君を繋ぎとめておけるだけの力はない」
「ウソ」
「ほんとに。君は僕たちよりずっと容赦のない人間で、僕たちどちらにも依存してない。いらないと言われて僕たちがどんなに怯えて傷つくかってことも想像できないくらい、君は強い」
 非難されて、顔をあげた。
 瞳がかち合い、私は彼らをこんなふうに見つめたことはなかったと気がついた。
 だとしたら。
 それは。
 それは、そうかもしれない。
「ご……めんなさい……」
「オレは、こわがってもないし、傷ついてないよ」
 ミズキさんが首をまわして彼を見た。
「この人、そう言ってるだけでそんなことできないから。そんでもってほんとに切るつもりなら予告なしで正面からバッサリいくほうなんだよ。口でいってる間はオレは心配してない」
 なるほどね、とミズキさんが首と傾けて微笑んだ。でも僕は言葉だけでびくびくしちゃうんだよね、と続けてつぶやいた。
 自分だけ酷い目にあわされたようなふりで嘆いていた己の至らなさに喉が苦しくなりそうだった。そういう私に気づいて、ミズキさんが肩を揺らして苦笑を投げかける。
「うまくいかないよね」
 彼はそのまま壁に背をついて、寄りかかりながら口にした。 
「まあそうだね。たしかにこの件は、僕が今ここで自分の欲望を開陳して熱心に説得してどうにかなるものじゃないね」
 まだ言いたいことがあるんですか。
 そう言いたいけれど、無駄な反論は控えた。そんなことを口にしたら、また延々とやめろと言っても語りだしそうに思えたので。
 とにもかくにもこれでこの話題が打ち切られて家に帰れるとほっと肩を落としたところで、
「でも、僕は姫香ちゃんをどこにも行かせる気はないよ」
 解放されてないじゃないか。
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