唐草銀河

「Q.V.Q.-キャトルヴァンキャトル-」
Ⅲ 「私小説の成れの果て」

Ⅲ 「私小説の成れの果て」 (4)

   わたしはこの小説のなかの父親トマスに「東馬(とうま)」という名前を与え、叔父レイフェルに「伶(れい)」と名づけ、「あたし(翠子)」が憧れているという設定の近所のお兄さんを「神 一郎(じん いちろう)」とした。残念ながら、夢に「最重要のSF作家ジーン・ウルフ」は出てこなかった。だが、中年男性ばかりでは華がないので青少年にもご登場願いたい(ちなみに、この伝でいけば祖父マークは日本でアニメにもなった代表作に敬意を表し主人公名トムこと「務(つとむ)」になるであろう)。
 1984年から翌年にかけて、わたしはようやく「小説」と呼べそうな長編を何編か書き上げていた。今でも自分の書いたものが本当に「小説」になっているのか悩むときもあるのだが、現在の逡巡は、当時とはまた違う次元のことであればよいと思っている。そして、わたしはこの夢を「私小説」として描きたいと野望を燃やしたりしたのだが、そうはうまくいかないのが「小説」というやつで、常套句通りに呻吟している。告白すれば、わたしは自分の「家」や「家族」に複雑すぎる感情を抱いているがためにそこへすんなりとアプローチできない。翠子の親友である綾乃に叱られるに違いないが、こんなふうな形でしか書けないこともある。それは、「逃げている」のとは少し違う。違っている筈である。
 それでも少し踏ん張って「叙述」してみる(ジョジュツと呼べる代物でないからこその「かっこつけ」である。否、括弧つき、か。ダメだ。ナニかがもうすでにして壊れてる気がする)。
 わが父は山いくつか(数を忘れた!)向こうの小学校に通うのに我が家の土地しか踏まなかったというありふれたクリシェ(これは語の重複にあたるだろうが)を振りまわす田舎者であり、「平家の落人」とされる家に生まれている。うそかほんとか知らないが、本家にはこれまたありきたりに殿様から拝領した名刀をGHQに取り上げられた逸話があり、寺には平安末期からの家系図が残されているらしい。いつかこの目で「実物」を確かめてみたいものだが、所詮は分家。小説のネタになると思わなければ興味はないし手続き等がメンドクサイし古文書なとそうやすやすと読めるはずがないから見たってしょうがないという身も蓋もない危惧と本音もある。まあ、見ればそれなりの感慨もあろうが、文字さえ読める自信がまるでないのだから「史料」やら「資料」やらの価値があるのかひたすらアヤシイ。またもっと「本音」らしいホンネを吐き出してみると、わたしの祖父はかつて大正天皇の近衛兵であって、その若き日の写真は「制服は三割り増し」の鉄則(?)を考慮してさえも、「美男子」と呼んでさしつかえないくらい見目麗しく、何故にわたしは「隔世遺伝」という恩恵にあずかることが出来なかったのか誠に恨めしく思うのであった。さらにいえば、もういくつか胸ふたがれる、あまり笑えないネタがあるのだが、これらを語るべき「時」をわたしは知らず、今はただ疲労が濃く、もうやめにしたい。
 だがしかし。
 世にはバランスというものがあり、割愛できないこともある。
 父の家を語ったならば母のそれも同様に語らねばなるまい。だんだん息切れしてきたが、もう少しやってみる。
 わたしの母の父、つまりは祖父の本家は庄屋で「名字帯刀」の身分、これだけならさして珍しくもない(父方も同じだし)がために話のタネにはならないが、天狗党を匿ったおりに乱戦になり柱に日本刀の食い込んだ痕が残っていたとなればドラマツルギー炸裂ネタではなかろうか。そんなわけで、件の刀創は物語と同じ名の「歴史」的事実なるなるものに相応しく興趣をそそられるものではある。そのいっぽう、英雄アエネイアスを始祖とするアウグストゥスのように、その祖をかの「藤原宇合」に求める石碑を麗々しく墓所に建てるのは、どこのどんな家でもこんなことは当たり前にあるのだとアタマではそれなりに理解できても、十代のわたしにはただの庄屋のくせにどうにもみっともないとその「凡庸さ」が受け入れられず、二十歳をこえてさえも苦笑を禁じえないものであり続けたというあまり告白したくない感情もある。どこの家にも「歴史」があり、それに見合った「物語」が必要とされ、場合によっては「権威」なんぞというものに頼る強かさも必要であろう。それは、わかる。わたしは小説を書くようなニンゲンなのでその心情については理解できていると思われる。されど「名」に相応しい何かとは一体ナニか。ああ、わたしは混乱している。このくらいでやめよう。それにだって、ウマカイですよ、ウ・マ・カ・イ! 藤原式家の!! もうちょっとそれらしく卑近なものはなかったのか・なかった、ん、でしょうね。まあ、そうなのでしょう。そうして……だいぶ年をとりすぎたわたしは先年、ヴェルギリウスほどの才人がするのであれば別にして、と件の藤原家の話しを母にしたところ、アレを調べて(否、でっちあげて?)建てたのはまさしく我が祖父であると聞いて目を丸くした。なんでもその当時本家に「嗣子」なく存亡の危機で(は大袈裟にしても確実に家が傾きつつ)あったそうな。婿養子にはいったひとと何とか守り立てようと知恵を絞った証らしい。なるほど、いかにもなお家自慢のハッタリと見ていたあいだは鼻白む想いであったが、そうと知ると「おじいちゃん、頑張ったんだ!」と妙に素直に受け止められそうにも感じられるのが肉親の情というものか。わたしも丸くなった。のではなく、それ相応に「家」の呪縛から逃れつつある。だけのことやもしれない。たぶん。 
 ところで。
 「私小説の成れの果て」って。まずもってこれ、「私小説」に「成って」ナイですよね。別の意味で「果て」てはいるかもしれないですが(笑)。
 しかも、こんなふうに我が家のことをどうでもよく書き散らしたあとに今さら思い出してなんだけど、ラファティ以外は物故作家ではない。勝手気侭に書きまくっても問題はないのだろうか? 
 これを読んだみなさん、怒ったり訴えたりしないでくださいね。

《この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などには関係ありません》 

 それからもひとつ有用な「注意」を!

  この話に動機をさぐろうとするものは起訴されるであろう、教訓を見つけようとするものは追放されるであろう、また筋をたどろうとするものは射殺されるであろう




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~ Comment ~

なんだか分からないけど爆笑しました。 

「授かりもの、
きっとそうだとおもいます
作品は「他人」と思って書いてます」

↑この感覚、似てるかも…と思いました。
以前に、「夢詩壺」にコメ返をいただいて、この時点では私も知らなかったんです…と、ミズキさんについて言及されていらしたのを拝見して、おおおおおっ! と同士を見つけた気になったのですが…
いや、ご迷惑であろう、と敢えて触れなかったのですが、やはり、触れることにした(^^;

ちょっとニュアンスは違いますが、fate worldは、実は、fateが描いている世界ではないんです。
じゃ、盗作か!
盗作…ではなくって、ううんとぉ、あれです。
どっかの次元にあるどっかの世界を覗き見て、その片鱗を文章に興して描いている、という感覚が一番正しい。
だから、これを表す文章力が足りない~~~~
と悶えますが、何しろ知識と語彙が貧困なので、その世界観をうまく表現出来ない。
それでも、その全体像の尻尾くらい表現したいっ!!! と悶えながら、まぁ、苦しみながら描く。
だいたい、fateの貧相な頭であれだけのいろんな世界を描ける訳がない。そんな想像力ねぇよ、と断言する。
イメージは降って来て、fateの指先を通って、勝手に文章として打ち出されるから、その文章を追って、おおお、そういうことか! と後から納得するのダ。
だから、描き始めないと何も分からない。
プロットをきちっと立ててからでないと書き出せない、とおっしゃる作家さんは、頭が良いんだと尊敬する。fateは人物が動き出してようやくどこへ向かうか分かるんだもん。しかも、磯崎さんのように世界設定も背景もないから、後から前に戻って辻褄合わせという作業が必ず入る。
お陰で、いかなる連載モノも完成してからじゃないとup出来ない。
しょっちゅうあちこちに訂正が入るので(^^;

人物の個性も役割もはっきりしてきたところで、突然、ラストが見えてきて、ああそうか、今までの伏線みたいなのって、このためか…と頷くのだ。
どんだけ、何も考えてないのか…(--;
そして、何故、最終的に物語が出来あがっているのか不思議だ。
やはり、これはどっかに本当にそういう世界があって、ちょっと覗いただけなんであろう…と思うしかない(^^;

あああ、すみません。
余計なことを長々と語ってしまった~~~~


Re: なんだか分からないけど爆笑しました。 

爆笑ありがとうございます~~~!!!

> ↑この感覚、似てるかも…と思いました。
> 以前に、「夢詩壺」にコメ返をいただいて、この時点では私も知らなかったんです…と、ミズキさんについて言及されていらしたのを拝見して、おおおおおっ! と同士を見つけた気になったのですが…
> いや、ご迷惑であろう、と敢えて触れなかったのですが、やはり、触れることにした(^^;

はい、どんどん触れてやってくださいましv

> ちょっとニュアンスは違いますが、fate worldは、実は、fateが描いている世界ではないんです。
> じゃ、盗作か!
> 盗作…ではなくって、ううんとぉ、あれです。
> どっかの次元にあるどっかの世界を覗き見て、その片鱗を文章に興して描いている、という感覚が一番正しい。
> だから、これを表す文章力が足りない~~~~
> と悶えますが、何しろ知識と語彙が貧困なので、その世界観をうまく表現出来ない。
> それでも、その全体像の尻尾くらい表現したいっ!!! と悶えながら、まぁ、苦しみながら描く。
> だいたい、fateの貧相な頭であれだけのいろんな世界を描ける訳がない。そんな想像力ねぇよ、と断言する。
> イメージは降って来て、fateの指先を通って、勝手に文章として打ち出されるから、その文章を追って、おおお、そういうことか! と後から納得するのダ。


おおっ、わたしがしゃべってるのかと思った!!!!!
すんごい似てます似てますそっくりです!
わたしは、「おりてくるもの」をそのまま抱えてズンズンと「おりていく」のです
するといつの間にか小説世界が「あがる」ってかんじ

> だから、描き始めないと何も分からない。
> プロットをきちっと立ててからでないと書き出せない、とおっしゃる作家さんは、頭が良いんだと尊敬する。fateは人物が動き出してようやくどこへ向かうか分かるんだもん。しかも、磯崎さんのように世界設定も背景もないから、後から前に戻って辻褄合わせという作業が必ず入る。

ああ、ええと
んーと、
わたしは両方いちおうのところ出来るんですが、>プロットありなし
プロットないほうが、面白いんでソッチばかりやってます
それで世界設定も背景も、わたしが書く前にその世界を散策して「おりていって見定める」感じです
たとえばでも、川幅は目視確認してるけどその底がどのくらいあるかわかんないから、わかんないところはわかんないんですよ
ミズキさんの件もそんな感じで、がんばって見尽くそうとしてるけどやっぱりその世界を実際に書いていくことであらわれるものもあるんですよね


> お陰で、いかなる連載モノも完成してからじゃないとup出来ない。
> しょっちゅうあちこちに訂正が入るので(^^;


辻褄合わせはわたしの場合ないんですけど、そのかわりそこを見尽くすのが難しくて止まってて大変たいっへん申し訳ないです(大汗)

> 人物の個性も役割もはっきりしてきたところで、突然、ラストが見えてきて、ああそうか、今までの伏線みたいなのって、このためか…と頷くのだ。
> どんだけ、何も考えてないのか…(--;
> そして、何故、最終的に物語が出来あがっているのか不思議だ。
> やはり、これはどっかに本当にそういう世界があって、ちょっと覗いただけなんであろう…と思うしかない(^^;

そうですよねえ
いや、わたしもそう書いてますよ!!!
そっくりそっくりです、ほんとに
あ、わたしはきっと、もっと覗きたいって最初に踏ん張るけど途中でやっぱり足らなかったてなってるのかもしれないですねええ

すごい、
fateさんと話してるとじぶんのこともよくわかる!
ありがとうございますv


>
> あああ、すみません。
> 余計なことを長々と語ってしまった~~~~

いえいえ、長文大好きなんで
こちらこそ嬉しいです~~~~v
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