唐草銀河

「Q.V.Q.-キャトルヴァンキャトル-」
Ⅳ 『Q.V.Q.』

Ⅳ 『Q.V.Q.』 (5)

  「翠子ちゃん、小説かいてるんだって?」
 学校からの帰り道、神くんに後ろから声をかけられた。筑波大生の神くんはこのあたりじゃ一番の秀才だ。文武両道、中学高校と剣道部の部長&生徒会長で目立ってた。あたしも成績では負けてないと思ってきたのだけど、実のところその差は大きい。つまり「オール5」と、それ以外はすごく違う。一個でも4があったり、ましてや体育で3を取ってしまうともうダメなのだ。先生たちに、何年も前に卒業した神くんと比較されると頤のすぐしたあたりがヒリヒリして、あさってには手にするだろうそれを思うと憂鬱になった。学年トップでも嬉しくないって、あたし、ものすごい不幸だ。
 それに、今でこそ、翠子ちゃん、だなんて年上のお兄さんらしくしてるけど、昔はミジンコだとかヘドロだとか酷いこと言われて髪をひっぱられていじめられた。もちろん、守ってもらったこともちゃんとある。でも、年上だから当たり前。そこはカウントしないの。
「神くん、こっちに帰ってたんだ。もう夏休みなの?」
「昨日からね」
 すぐ横に並ばれて、シャツからのぞいた腕に熱気を感じた。男の子って体温高い。この蒸し暑い空気より熱が高くて苦しくないかと斜めにみると、あごのラインにひげが皮膚表面から伸びる直前のぷつぷつが散らばっているのが目に入る。パパので見慣れてるようにも思うのに、他の人のは珍しいから眺めてしまう。同学年の子で、こういうのは見なかったような気がする。神くんは、あたしの視線をさえぎるような声でいった。
「それより今度、読ませてよ」
「やだ」
「教室で回し読みしてるって聞いたけど、ぼくには読ませられないの?」
 イヤミったらしく微笑まれた。中学生相手でも手加減せずに貶す気満々でいる。パパはあたしが小説かいてるなんて知らないしもし気づいてたとしても神くんに会ったとは言ってなかったし(ふたりは何故か仲がいいの。お互い将棋好きなせいかな。棋友っていうらしい)、犯人は神家のお隣の綾乃しかいない。クラスの女子には受けたけど、彼には通用しないだろう。夢見がちとか、もっと突っ込んで書けとか散々なこと言われそう。
「翠子ちゃん?」
 あたしと神くんはいつだって仲がよかった。と言って、ウソにならない程度には仲良しだった。今だって、こうして隣りにならんで喋るくらいには。
 ただ。
 そう、ただ、ほんとに何でもない幾つかのわだかまりがあるだけだ。
 神くんとあたしは誕生日が一日違いで、彼の家で大勢の人にお祝いしてもらうのはうれしかった。けど、あたしを迎えにきたパパが神くんのお母さんに何度も頭をさげておべっかを使うのは見たくなかった。卑屈で格好悪くて、パパらしくない。それに、そう感じたあたしを、神くんに見られてしまったこともいただけない。そして、あのとき気に障ったのは父親なのに、あたしは神くんのほうを恨んだ。翌日わざわざうちに来てくれた彼を追い払い、次の年、お誕生日会はなくなった。神くんのお母さんが働き始めたせいもあるし彼の年齢的なこともあるだろうけど、たぶん違う。おばさんはあたしのために開きたいって言ってくれたことがあったから、やめさせたのは神くんだ。
「……あたしの母親のこと教えてくれたら、読ましてあげる」
 神くんの足がとまった。あたしはそれを無視して先を歩いた。
「お母さんが出てったとき、神くん6才じゃん。ご近所の噂話くらい記憶あるでしょ?」
「覚えてない。それにもし覚えてたとしても、ぼくがこたえると思う? まずはお父さんに聞くべきことだ」
「あの人、まともに取り合わないんだもん」 
「あのひとって呼んでるの?」
 大人の顔で見おろされた。じっさい二十歳こえてるから大人だけどね。そしてあたしも、十二分にませた娘だし、そこらへんの大人より世の中が見えていると自惚れても許される程度には「おとな」だ。生理さえきてないけれど、あたしはもうコドモじゃない。それでなお、神くんには、ミドリコは甘やかされすぎてるって言われてきた。それはわかる。パパはあたしに甘いから。でもね、それはあたしのせいじゃない。パパの負い目だ。
「学校の先生や他の人の前なら『父』っていうくらいの分別はあるよ」
「じゃあそう言いなよ」
「そうだね」
 無言で睨み合うようになってしまって後悔した。どうせここまで晒すなら、あたしはここで、どうして自分だけそれが許されないのか聞けばいいんだと思う。神くんは、綾乃にはこんな言い方をしないよね? あたしだから、そう言う。そうやって特別視されるのに慣れてきて、あたしはきっと勘違いした。けど、小説を書いて、わかった。神くんがあたしに期待したのは、このうっとうしい自意識のみっともなくない鏡像だ。あたし達は似すぎている。反対のところがないと、レンアイにはなれない。あたしはそれがわかる。それくらいのことは範疇だ。じゃなきゃ恋愛小説なんて書かない。だから、口を閉じたままの相手へと、肩をすくめて聞いてみた。
「神くん、大学に彼女いないの?」
「いるよ」




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~ Comment ~

反対のところがないと、レンアイにはなれない 

↑おう、まさにその通りっ!
裏を返せば、自分を大嫌いで、憎んですらいたから。←同族嫌悪。
今は過去形になっているけど、度合いが低くなったに過ぎない。
なんて、たった今、この物語を拝読してきたら、その口調が移ってしまっている(--;
あああ。バカだ。

「わたしは両方いちおうのところ出来るんですが、>プロットありなし
プロットないほうが、面白いんでソッチばかりやってます 」

↑あああ、そうだと思ってました~~~
世界構成や設定をきちんとやってらっしゃるんだから、プロット立てない訳がない、というより、そういう手法もやっているだろうな、って感じですか。

でも、そうなんですよ。
行く先を縛っちゃうとfateの人物たちは、途端にやる気を無くして、決まってるんでしょ? 勝手にその通り進めりゃいいじゃん、って拗ねてストライキを起こすんだ。
チクショーやってらんね~、このクソガキ共っ!!!
と切れても、やはり役者が動いてくれないとfateにはどうしようもないので、しくしく、ごめんね、分かったよ、もうこのレールは外すから何かやってくれ、と詫びを入れて、全面降伏するしかない。
覚えてろよ~~~
とかって、恐ろしい罠を用意しても、何故かそれを行使し切れなくて、はああ…とため息をついて終わる。

オカシイ!
絶対オカシイだろっ
なんで、fateの方が下なんだよっ

は、良いとして。
この神くん、どこかミズキさん的で好きです!
ふふふふふ。
また追っかけ復活か~~~???

Re: 反対のところがないと、レンアイにはなれない 

> ↑おう、まさにその通りっ!
> 裏を返せば、自分を大嫌いで、憎んですらいたから。←同族嫌悪。
> 今は過去形になっているけど、度合いが低くなったに過ぎない。

はいはいはいはいっ!
もう、なんかfateさん、わたしのことよくご存じでしょ??
 
> なんて、たった今、この物語を拝読してきたら、その口調が移ってしまっている(--;
> あああ。バカだ。

えええ?
ばかだなんて、そんなことないですよー、
でもあえていわせていただければ「かわいい」かな?(ミズキさんならそう言いそう)
 


> ↑あああ、そうだと思ってました~~~
> 世界構成や設定をきちんとやってらっしゃるんだから、プロット立てない訳がない、というより、そういう手法もやっているだろうな、って感じですか。

そうですね、手法でしかないっておもってます

> でも、そうなんですよ。
> 行く先を縛っちゃうとfateの人物たちは、途端にやる気を無くして、決まってるんでしょ? 勝手にその通り進めりゃいいじゃん、って拗ねてストライキを起こすんだ。

あー、わかるわかるわかるすんごくすんごくよくわかりますうううううううっ!!
手を握っていいですか?
振り回していいですか??
 
> チクショーやってらんね~、このクソガキ共っ!!!
> と切れても、やはり役者が動いてくれないとfateにはどうしようもないので、しくしく、ごめんね、分かったよ、もうこのレールは外すから何かやってくれ、と詫びを入れて、全面降伏するしかない。


あははははは
そうそうそう、わたしも全面降伏ですねえ

> 覚えてろよ~~~
> とかって、恐ろしい罠を用意しても、何故かそれを行使し切れなくて、はああ…とため息をついて終わる。

あ、
そっか、
なんかね、fateさんの小説、なんとなく、どこかで大変そうなのにやさしいなあって思ってて、
罠、使っちゃうといいかも
いえ、使いたくても使えないようになってるのかもですが、
大鉈ふるってバッサリいってみると、わたしのような鬼畜好きというか「鬼畜」がもっと寄ってくるかも(いやですかいやですか~~~~?? 涙


> オカシイ!
> 絶対オカシイだろっ
> なんで、fateの方が下なんだよっ

いやもうそれはしたでしょ、
はい、
わたしもした、ですもん
ははははは
にゅーん(溜息)

> は、良いとして。
> この神くん、どこかミズキさん的で好きです!
> ふふふふふ。
> また追っかけ復活か~~~???

あ、
ほんとだ、
ちょっと似てるかも
追っかけていただけるほど長いはなしじゃないので残念ですが、
わたし、たぶん、ああいうオトコが好きなんでしょうねえ
ふふふふふ
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