唐草銀河

「夢のように、おりてくるもの」
多分、夢のように

多分、夢のように 1

   あいつら、ほんとに出来上がっちまったのか……。
 ガラス窓の向こうは粉糠雨、一本の傘に二つの人影が寄り添っている。俗に云う、相合傘だ。
 たかが相合傘で出来上がったもないもんだが、彼等はちかごろ様子が違った。かれらとは、彼等。夢使いと、うちの学生アルバイト。ふたりとも男。ともに二十代、コンビニエンスストアのアルバイト店員。そしてそれを盗み見る俺は店長。という構図だが、さて。
 俺はあいつらが出来上がったその日も実は知っている。若者同士だ。肉体的に繋がることは幾らでも出来る。だが、気の迷いでなく、こうしてその後も続いてるとなると、これは……。
 他人の恋路に興味はないと嘯くことができないのはきっと、「夢使い」に興味があったからに違いない。ほんの少しだけ、あの男に似ている。俺の人生を狂わせてくれた男に。
 どこか寂しげな、それでいて誰をも信じないと言い放つような目のひかりが。
 それを見ると、わけがわからない気持ちになるあの、瞳が。

 俺の貴重な休日は面会日というやつに潰れる。娘は可愛い。その母親に似て、将来きっと美人になることだろう。しかも夢使いになるそうだ。いったいどうなることやらと俺は内心気が気ではない。
 別れた妻のことは、今でも嫌いなわけじゃない。たまに寝たいと思うことがあるが、誘わない。誘えばついてくるとも思わない。いや、俺に未練があるのは知っている。知っているからこそ、声をかけるわけにはいかない。厄介なことだ。
 それはだが致し方ない。
 俺の浮気が原因で別れたのだから。
 しかも俺は、彼女の父親と寝たのだ。
 今でも、寝ているのだから。

 あの男のほの暗い腋窩の燻りは蜜のように甘かった。夏でも酸い味はなく、さらに暗く熱の凝った場所もまた、熟み崩れた果実を思わせて舌で解け、どろどろに蕩けた。

 俺の、手入れの行き届かない無精髭を、あの男が指の腹で丁寧に撫でさすり、珍しそうに爪の先で弾くのを見るのがうれしい。自身は毛深くない質らしく、顎の剃り跡さえ見当たらず脛の毛も薄い。初めてからだを合わせたときに、そういえば妻も産毛というものがなく、せいぜい腋の手入れをするだけであったことを思い出し、俺は己の不義のもたらす不埒な愉悦に密かに哂った。

 妻に、責められることはなかった。ベッドの上では。
 「浮気」がばれて後は散々だったが。
 あれは、あんな綺麗な顔をして、幾人もの男を女王のように従えながらその風情そのままに処女だった。その後もごく普通に、いや、つまりは貞淑にふるまった。今更こんなことを言うのは酷い話だが、俺にはきっと、おとなしすぎたくらいだ。とはいえ俺が裏切ってから後は知らない。付き合った男がいないわけではないことは知っている。父親、つまり俺の情人から伝え聞いた。それでも未だ再婚はしていない。
 あの男は艶のある柔らかな唇に冷たい笑みをたたえて口にした。
 君は、そちらの方面も優秀だからね。たまに私は娘に嫉妬するよ。何年も、君を独占していたのだから。

 俺はそのとき黙っていた。
 本当は、言い訳をしたかった。
 貴方だからですと。
 貴方の娘にはこれほど夢中になりませんでしたと、そうは言えないではないか。抗弁することであらわになるのは何なのか。俺は知らないふりはしない――いくら、俺とあの男が人でなしの恥知らずでも。
 いや、だからこそ口にせずに愉しんだ。多分、二人とも。

 あの男はその口で、娘をかわいそうに思うとほざいてみせた。俺のを咥えたこともあるあの口で、何をか言う。だが俺はもっと酷い。同じ口で父と娘に同じ言葉を囁いた。

 言葉など、どうとでも繕える。
 でなければ、人生なんてものは重きに過ぎて、やってられんよ、まったく。
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