唐草銀河

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唐草銀河vol.6『花酔い―視界樹物語外伝―』(完売しました。どうもありがとうございます!)

 

 ちかごろ都じゃ御百度参りが流行ってる。なんでも、鳥門(とりもん)のしたに耳飾りを埋めて百度を踏むと、どんな願い事でもかなうという。
 おれと同じ城勤めの厩番はもちろん、近衛兵のあいだでも噂になってるようだから大した効き目があるそうだ。うそかほんとか知らないが、御上臈がひっそり城を抜け出して願をかけたなんてはなしも耳にした。いやそれはさすがに無理だろうと笑い飛ばしてはみたものの、ついせんに、おさななじみの織枝(おりえ)も百度を踏んだときいたときには目をむいた。御上臈とちがって町娘の織枝なら、百度踏めないことはない。
 織枝はおれたち七人のおさなさじみのうちじゃ親分格で、求婚者があとを絶たない都一の織物商のむすめだ。願掛けなんて頼る女じゃないと思っていたが、わからないものだ。 
 いっつもつるんでた仲間たちも、おれをはじめ四人が耳飾りをつけて成人してからは、そう頻繁に会えなくなった。おとなになるってのはそういうものだ。それぞれに居場所もかわった。この都を離れて地方に赴任したやつもいる。結婚して母親になった女も。
 みんなそうして、それぞれの暮らしをもつようになるのだろう。花見だ川遊びだと集まるのも、もうないことかもしれない。
 ふと、ウテナのことを思い出した。
 あいつは無事に成人できるんだろうか。耳飾りにするための夢石がないのに。あれがなきゃ、結婚だってできやしない。
 おれが心配することじゃない。そうも思う。あいつは本来の居場所に戻ったんだから。
 そうは思うが気が晴れない。
 気が晴れない理由はまだあった。
 今日はたまたま非番で織枝に呼び出された。あいつに会うのはひとつきぶりだった。なのに、いきなり泣かれた。あんな気の強い女に泣かれると弱る。しかも、まるで春売りのように大きな耳飾りをしていた。
 織枝の夢石はただでさえ血のように赤い。その赤くてぎざぎざしたのを黄金と真珠で派手に飾り立てていて、あいつの婀娜っぽい顔立ちにそれは似合わなくはないんだが、おれはどうも好かなかった。
もう片方の赤いかたまりが瑪瑙か珊瑚か知らないが、後見人が用意してくれた耳飾りを埋めるってのは、どんなもんかと思う。片耳しか耳飾りをつけてないっつうのも半端に子供返りしたみたいで気色悪い。
 誰かに話せば願いは叶わないそうで、織枝はなにを願ったかは言わなかった。けど、あいつはおれの耳に目をやって、葉(よう)はウテナとのことを願うの、と聞いてきた。そのことばに癇が立ち、織枝を押しのけるようにして背を向けた。すると、いくら想ったって身分が違うから無理よ、と織枝の甲高い声がおってきた。
 そんなことは、百も承知だ。
 ウテナと会ったときから知っている。
 知っているさ、誰よりも。だから心配してるんじゃないか。
 ちっとも役には立たないが。
 おれはたぶん、あいつになんにもしてやれなかったことが悔しいのだ。苦しくて仕方がないのだ。
 ずっとそばにいたのに……守れなかった。
 だが、まあ、そのせいであいつは本来の居場所へもどったのだ。戻ることが許されたともいえる。おれはそう思い直して天を見あげた。
 今日は天上にまします樹(いつき)の帝のご機嫌がひときわ麗しいらしく、見あげる空は瑠璃色に輝いていた。天を支える視界樹の、その青金の枝葉がこんなふうにきらめいて見える日は、何かいいことがあるものだ。気を変えて、うわさの鳥門を見てこようとお社へ詣でることにした。
 いまの時季は桜がちょうどその盛りで、御殿から見おろすと、お社はうす淡い紅色に埋もれるようだった。おれは桜にいい思い出はないせいか、花見で浮かれるほうじゃない。酔客も嫌いで酒もやらないが、それでもやはり花を見たいひとの気持ちはわかる。
 脇参道から桜並木を行きかうひとを眺め、橋を渡って境内にはいる。日が好いらしく、あちこちの親木の根元に家族連れがあつまっている。
 成人して耳飾りにする夢石を七歳まで守ってくれる親木は、いってみればもうひとりの親みたいなもんで、捨て子のおれも、その樹のそばにいるとさびしくはなかった。
おさななじみ七人は、この境内の最奥にある欅(けやき)の巨木を親木にもったのが縁で、何かとつるんで遊ぶようになった。
 それにしても今日はやけに人が多いと気になって、用心してあたりを見回すと、城で見知った顔がいくつかあった。目立たぬように参拝者や花見客を装ってるっつうことは……しまった! うっかりしてた。今日は、姫様の参詣の日だ。
 こっそり忍び足で引き返そうとしたところで、左の耳たぶが耳飾りごと捻りあげられた。
「いででっ」
「葉、こんなところでなに油売ってるんだよ? 響(ひびき)に言いつけるぞ」
養い親の名を出して脅すとは、朝生(あさお)らしい。掏りや盗賊の引き込みをしてたおれの背後をとれるのは、この男と響さんくらいなもんだ。
「朝生さん、おれは今日、非番だよ」
いちばん見つかりたくなかった相手に見つけられ、おれは襟首を掴まえられた猫みたいになった。 
「暇にかこつけて、ウテナさまの顔を見に来たなんて抜かすとぶん殴るぞ」
「違うって」
 なんて言い訳しようかと思案した。たしかにずっとウテナのことばかり考えていた。でも顔を見に来たわけじゃない。て、それじゃまるで言い訳になってない。いや、語るに落ちすぎている。おれはなんにも気づかずにここに来たと言うつもりなのか。それはあまりにみっともない。我知らず首をふったところで、今度は右手から別の声。
「葉、どうしたの、きょうはお休みなの?」
 うあ、いってるそばからウテナだ。
 わけあって、数年前まで隣に住んでたおさななじみ。おれは響さんという城勤めの衛兵隊長に引き取られた。その兵舎には朝生とウテナが兄妹と偽って住んでいた。
 その当時から、いかにも訳有りふうではあった。朝生はその風貌からして、ただの衛兵に見えなかった。美丈夫と呼ぶにふさわしい相貌と手足のやたら長いからだは目立つことこのうえなく、ましてウテナはといえば、髪が白かった。そんなふたりが寄り添って暮らしているのを、おれたちは何年も見守ってきた――いつ、ここから出ていくのだろうと。
 今はこうして無事に姫様として御殿におさまったが、そんな柄の悪いところにいたもんだから、ウテナはむちゃくちゃお転婆だ。今だって、朱鷺色の長い袖を揺らして駆けてくる。ちったあ姫様らしくなれよとため息が出そうになるのをぐっとこらえて跪く。
「姫様にはご機嫌麗しう……って、おれに気軽に話しかけるなって言ってるだろ」
 後ろ半分小声になったおれをウテナはわらう。おさないころと変わらない笑顔で。それから小首をかしげて言い返す。
「別にいいじゃない。わたしがここで鬼ごっこして遊んでたの、みんな知ってるわよ」
「それでも駄目なんだよ!」
「どうして」
「身分っつうのがあるよ」
「まあそうだけど」
 不服そうに赤い唇が尖っている。前は紅なんてつけてなかったと、おれは玉虫色に光るそれを見てあることを思い出し、かっと耳が熱くなった。やばい、ヤバイ。
 ウテナは首をかしげておれを見た。けれどおれは何も言えない。言えるはずもない。見つめ合ったまま動けなかった。
 朝生は、そういうおれたちを引き離そうとはしなかった。それに甘え、おれは他のひとに聞こえない囁き声でいった。
「〈枝葉〉を拾ったんだってな」
 視界樹の〈枝葉〉を拾ったむすめは天上にのぼって《視界》の総領に嫁ぐという。
ちかごろ昼間っから蒼弓に点々と闇が見えて、今にも暗い天が落ちてくるのではないかとみなが不安に思っていた。けれどそれは、樹の帝の代替わり、つまりは総領のご結婚の知らせのためだったのだ。
 ウテナが〈枝葉〉を手にしたうわさは瞬く間に広まって、この国は大いに浮かれている。そして、金糸銀糸のおかいどりを着てぴらぴらした簪をさしたウテナは、一年後に嫁ぐことの決まった幸福なお姫様らしく見えた。
 おれはその姿を目に映し、それこそ万感の想いをこめて、おめでとう、といった。
 すると、見る間にウテナの眉がまんなかに寄せられた。
「葉、オメデトウをいうのは早いわよ。あのね、視界樹の〈枝葉〉を拾ったむすめは、他にもいるの。それこそ隣の国のお姫様も受け取ってらっしゃるそうよ。つまりね、わたしが《視界》の総領様のお后さまになるのはものすご~く、大変なことらしいのよ」
「そうなのか?」
「そうなのよ」
 なぜかウテナは威張っていた。おれが朝生に救いを求めると、彼はしぶしぶ申し出た。
「ウテナさま、ご身分の上ではあなたさまに勝る方はおいでになりません」
 ウテナはそれに、いったんは生真面目な顔つきでうなずいたものの、おもむろに口をひらいて語りはじめた。
「たしかに朝生のいうとおり、わたしの母上様は樹の帝の妹でいらしたし、この国は《地》ではもっとも古い由緒ある王国だわ。でもね、この手のことはそういう政治向きの理由よりも、器量がいいほうが絶対に有利じゃないかとおもうのよ。だって、昔話のたぐいには、家柄がよくてお金持ちの不器量なむすめより、持参金も何もない、けれども若くて美しい魅力のあるむすめが殿方にえらばれる話しがあふれかえっているもの」
 男のひとは、みんなそういうものなのでしょう、とウテナはなぜか賢しらな顔つきでおれに同意を迫ってみせた。おれは何がなんでも首をたてに振るまいと意を決してその顔をみた。



続きは同人誌で!

vol.5 『花酔い――視界樹物語外伝――』※おかげさまで完売いたしました! どうもありがとうございます☆
(異世界SFファンタジー・短編)
6号表紙_ペインティング
そして表紙の八重桜はこちら
site : nameless pictures
url : http://number4.hatenablog.com/
はてなid:cm4 こと、ちゆきさんのお写真です。ずっと表紙につかわせてもらいたいと思ってきたので、願いがかなってとても嬉しいです♪ 本当にどうもありがとうございます!


250円(A5 24頁 コピー本 2013/4/28)



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