唐草銀河

「夢のように、おりてくるもの」
夢うつつ夢うつつ

夢うつつ夢うつつ 補遺2

   縺れあうようにしてドアを開けたおれたちを出迎えたのは、玄関の三和土いっぱいに並べられた靴たちだった。それを見た瞬間、おれたちふたりはぎょっとして離れた。体重のほとんどをおれに預けて寄りかかっていたあなたは、危うく弟子の赤い靴を踏みそうになっていた。
 そしてあなたは完全に目が覚めた。
 おれは、あなたの腕を掴んで外に出てしまおうかとも考えた。今ならまだ引き返せる。そう考えながらも、おれは昨日ホテルでみた母親の靴がそこにあるのに気づいて吐息をついた。
 母に、あなたを紹介したかった。
 そのときには素直にそうおもえた。
 あなたはあなたで、おれの逡巡を嗅ぎとって振り返った。そのとき、
「先生!」
 あなたの弟子が、ぱっと花が咲いたような笑顔でおれたちの前にあらわれた。あなたはその高い呼び声に頭をもどす。それからまっすぐに彼女へと視線をむけて口をひらいた。
「ただいま」
 至極、穏やかな調子だった。
 それを聞く彼女の表情が何かをこらえるように歪んだ。それもほんの一瞬のことで、慌てたそぶりで頭を伏せた。
「……ふたりとも、おかえりなさい」
 そう言って、先ほどは駆け寄ってくるかに見えたのに、その場で深くお辞儀をした。
 あなたもそれにならった。
 もちろんおれも。
 おれが頭をあげると、あなたはようやく靴を脱いだ。あなたの弟子が、まるで恋人のようにあなたの腕をとる。さきほど抱きつかなかったのにと感じたおれへと顔を向けて、悪戯っぽい調子で微笑んだ。もう、いつもの彼女だった。だからおれも普段どおり、ひょいと軽く肩をすくめてみせた。あなたは、そういうおれたちのやりとりに気づきもしなかった。いや、今までどおりに知らんふりをしたのかもしれない。
 それとも、他に気をとられることがあったのか。
 たぶん、その両方だろう。

 あなたの目の前に、教授が立っていた。
 あなただけをまっすぐに見つめるひとに、あなたは全神経を傾けるようにして向き合っていた。
 
 

 
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