唐草銀河

「夢のように、おりてくるもの」
外伝・小咄

面食い 5

   腕のなかのあなたが、ひぁっとお世辞にも色気があるとは言い難い声をあげて震えた。そのうなじにローションを垂らしたからだ。あなたは振り返って文句をつけるつもりだったようだ。ところがあなたの中心に手をあてがい容器からそれを滴らせると、あなたの口からは言葉らしいものは何も発せられず、かわりに漏れた声にならないそれは、おれを勢いづかせるに十分なほど艶めいていた。
 けれどあなたは上下に動いたおれの手にいくらか抵抗をした。ふりほどくほどの力ではなかったが、慣れない感触のせいか素直によろこばなかった。だからおれはすぐに手をはなし、あなたの淡い翳りにそれをたっぷりとなすりつけた。
「左胸のほうが好きだよね」
 耳のうえで囁きながら濡れた指のはらでかるく触れただけで肩が揺れる。抓んでくれと言わんばかりのそれを上下に揺するように転がしてあなたの息遣いを愉しんだ。爪の先で捻りあげてしまいたくなるのを堪えて、右手をさらに濡らす。
 足を開いてというかわりに自分の右脚をあなたの膝裏へ押しつける。あなたは従順だった。あいた隙間へと右手をさしいれる。身動ぎしたのは快感のためでなく緊張のそれだとわかった。おれはそこを素通りし睾丸を転がすようにまさぐった。あなたはまだ、じぶんのものに手を添えているだけだった。かえって頑なにしてしまったようだ。
 壁についていたあなたの左手に手を重ねて撫でさする。あなたの背へと胸を寄せると、汗とも水ともまるで違う肌触りにあなたが嫌がるように首をふった。頬を押しつけてうなじにくちづける。足の間を行き来させていた手をあなたのいちばん奥まった場所に触れさせる。びくりと震えた尻をなだめすかすつもりがおれは自身のいきりたったものを滑らかな肌へ擦りつけていた。あなたの右手が後ろへとまわり、おれを優しく握りしめる。と同時にあなたがわらった。凄いなと。
 その余裕が憎らしい。さっきまで怖がっていたくせに。
 こちらへ向き直ろうとしたあなたの頬を掴みよせ反対の手で肩をぐいと壁へと押しつける。乱暴な扱いに文句を言おうとした唇へ舌をねじこみながらあなたの手を引き剥がす。
「あなたは自分ので気持ちよくなって」
 壁に頬を押しつけたまま、今日すこしおかしいぞとあなたが言った。わかってる。あなたは抱き合って解放されたかったのだろう。それがあなたらしいやり方だ。でなければ互いの口に熱を放つほうを好んだ。ましておれはあなたの後ろに指をくぐらせるとき、いつだってあなたを先にいかせてきた。あなたはさっき、それを期待してベッドへ行くのを拒んだのだ。知っている。あなたはおれの顔を見ようとした。さっきもそうだったように。
「まだここきついんでしょ。楽になるよう自分でして」
 おれはあなたの襞を指のはらでかるく弾く。濡れた音を響かせるとあなたが身をよじる。入れるよと囁くと呼吸を変えた。
 やわらかかった。
 呻いたのは、あなたではなくおれのほうだった。情けないほど素直に声をあげたおれに気を好くしたのがわかった。動かせと命じた。いつも許可をとるおれに先んじて。
 まったく、あなたというひとには恐れ入る。やんごとない姫君のように部屋を暗くしろだの四つん這いは嫌だのと散々駄々を捏ねるくせに、いざとなるとこうだ。たまらない。
 二本に増やして抜き差しをはじめても嫌がるようすはなかった。鼻にかかる喘ぎ声は自慰のせいかと確かめたがあなたの肘も手も動いてはいない。おれが覗きこんだ気配を察したのだろう。いいから続けろと口にした。ご要望通りもう一本指を増やす。あからさまに痛がりはしないが浅い呼吸が少しばかり苦しげで急ぎすぎたとわかった。
 左手を前にまわす。萎えてはいなかった。だからあなたの感じやすい、まるく柔らかな先端だけを愛撫しながら囁いた。
「動かして」
 あなたは荒い息をつぐだけだった。おれは膝を起こし、あなたの背にぴたりと身体を寄せて耳にくちづける。
「ねえ、いつもしてるみたいにして自分で気持ちよくなって」
「……だからっ、ずっと、してない」
 切れぎれの声はくぐらせた指のせいだけではなさそうだった。おれはあなたが何を言っているのかわからなかった。あなたが呻くようにして、顔を俯けたまま続けてはじめて察した。
「いっしょに暮らしてからはしてない。その前も、まったくしなかったわけじゃないが、よくはなかった……下着を汚したりするのが嫌で、だから、仕方なく、」
 血の気が引いた。目の前がほんとうに暗くなった。それ以上言わせたくなくて背中から両腕で抱き締めた。いや、たぶん縋りついた。きゅうにどうした、とあなたが言った。いつものあなたらしい、平らな声だった。
 ごめんなさいと謝ると、なにが、とあなたは問うた。間をおかず笑いながら、俺がしてるのを見たいとまで言うくせにとおれの頬を小突いた。
 あなたは、おれの震えにきっと気づいただろう。
 こんなにも自分を殴り殺したいと願ったことはかつてなかった。あなたに、かわりにはなれないと言わせてしまったときの後悔をはるかに上回っていた。あなたの潔癖、その原因であろう事故を知らないではなかったはずなのに――……
あなたの手がおれの右手首を掴んだ。
「手がお留守だ。せっかく慣れてきたんだから続けてくれ」
 うなずくかわりに、おれはあなたの左耳のうえに唇をそっと押しあてた。そしてあなたに従うべく腰をおろした。
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