唐草銀河

「夢のように、おりてくるもの」
外伝・小咄

面食い 6

   彼のからだが背中から離れた。その熱が去ったのを惜しくおもうじぶんがいた。四つん這いが嫌だと言ったのは、あのとき彼が背に覆いかぶさるのではなく足の間に座ったからだ。いまも、そのときとほぼ同じ状態にあるのだが俺が促したのでやめろと言いづらい。
 楽にして、と声がかかる。俺はもう緊張していなかった。彼が与えようとしてくれているのは快さなのだと知っている。
 だが、彼の顔の前にじぶんの尻を突きだすような格好はどうにもいたたまれず恥ずかしくてたまらない。しかも彼の右手は俺の内側を探り、その左手は俺のものを包みこむ。さらには前も後ろも聞くに堪えない音を立てている。口を覆わないでと言われたが手を放したらどんな声が漏れるかわからない。ときどき腰が砕けそうな瞬間がある。総毛立ち、悲鳴をあげて嫌だという。それが吐精する前兆なのだと頭では理解しているがどこかわからないところへ無理やり引きずられていくようで恐ろしい。後ろに指があるとそれが気になっていけそうでいけなくて、とてもつらい。
「そのまま力抜いてて」
 楽な状態のまま達してしまいたかったが俺は素直にうなずいた。自分の肉体に何かを埋め込まれる感覚に慣れない。それが動き、抜かれることにも。ひどく痛むわけではない。いや、いっそ痛いだけならまだ気楽だとすら思う。ほんとうに。
 強烈な違和感と、おそらくは快楽に相当するのだろう強い感覚と、それを上回る羞恥が俺を内部から塗り替えていく。なぜ俺はこんなことを許したのだろう。そう考えると嗚咽が漏れそうになる。いや、じっさいに泣いているのだろう。彼が手をとめて俺の髪を撫でながら頬にキスをした。目尻を舌で舐められたのは涙を吸われたのだ。
 もう今日はやめるねと囁いて指が引き抜かれるのを感じた俺はその手を掴んだ。
「……続けろ」
 のぞきこまれそうになって顔をそむけた。みっともないありさまになってるに違いない。無理しないでと言われたが、そもそもそんなものをそこへ入れようとすること自体に無理がある。そう吠えそうになったが我慢した。俺が不出来なだけで、やれる人間はいるのだ。しかも今日なんど続けろと言ったかわからない。それが不出来の証しのような気がして腹が立つ。たしかに昔よんだ幾つかの本でも楽にできるとは書かれていなかったがそれでも、だ。
 首の後ろに小さな吐息がおちた。
「わかった。じゃあもう少し我慢して」
 ちょっとくらい嫌がってもやめられないかもよと続けられたがこれだけ中断させたらそれも道理だと納得しないではなかった。うなずいたのを見届けると同時に抜き差しが開始され、前を扱きあげられる。いっぽうてきに呼吸をはかられる思いやりに満ちた愛撫に慣れ親しんできたのだと思い知らされた。揺さぶられ掻き回されてあげる呻き声はそれなのに嬌声じみている。彼が首筋に唇を這わせながらいう。あなたのなかがこんなで、そんな声聞かされたらおれが先にいきそう、と。なら早くいけ、俺もいきたいという口に指をつっこまれた。じぶんの先走りとベタベタした液体を味合わされる。しかも速度をあげてくれるものと期待したのにだ。少々痛むのは我慢するがこれはない。
「焦らすなよ」
 もう限界だと口にするつもりだった。そういう俺をあやすように彼の唇と舌が背骨を這い下がる。それは快感だった。脇腹から太腿までを左手がやさしく行き来する。やがて濡れた掌が腰骨を押さえこむように掴んだ。と同時にくぐらせていた指がゆっくりと引き抜かれた。俺は大きく息をついだ。まだそのとき彼がなにをしたいのかわからなかった。背骨を舌で舐められる愉悦に酔っていた。
「ねえ、ここに黒子あるの知ってる?」
 指が太腿の付け根あたりをつつく。いったいどこをのぞきこんでいるのだと呆れながら、それはたしか前にも言ったじゃないかとこたえようとした俺は悲鳴をあげた。彼が、その高い鼻筋を尾てい骨に押しつけながらそこを舐めた。いや、尖らせた舌を捻じ込んできた。身体が跳ね上がったはずだが両手に押さえつけられている。前は壁で逃げ場がない。それはいやだやめてくれと叫び声をあげて押しのけた手を掴まれた。てのひらを合わされながら痛くないでしょうと平然とした声になぶられた。だからそんなところで喋るなと吠えたとたん前にまわされた手が容赦なく俺を追い上げた。血が沸騰する。わけのわからない声が口から絶え間なく迸り出る。肉をしゃぶられているのに背骨がふるえた。うちがわとそとがわのさかいめがわからなくなる。こわい。
 そのあいだずっと手をにぎりしめていた。
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