唐草銀河

「夢のように、おりてくるもの」
外伝・小咄

木染月 5

   からだ起こして。
 そう言いながら彼が俺の上半身を抱き起こした。後ろ手に縛られているので自分で思っている以上にもたもたした。
 顔あげて。
 態勢を変えられたうえでそう言われたら口淫をねだられたものと思うものだ。むっとする熱気に、彼のものが目の前にあるのがわかった。迎え入れようとしたとたん先端が俺の頬の高いところを突いた。それから耳から顎のあたりを熱い塊が撫でた。濡れていた。俺は頭をふった。彼はすぐ、ごめんねと言ってバスタオルで頬をぬぐった。口に入れても大丈夫なものだけどあなた嫌いだったね、と。先走りや精液なら構わないが、ゼリー状の何かわからない液体は好かなかった。言わずとも通じたらしく、ずいぶんと丁寧に自分のものを拭いている。そこまで神経質に清めなくともいいと伝えるべきか悩んだ俺の顎を彼の手がつかむ。ばさりとタオルが落ちる音がしていよいよかと思ったところで指を含まされた。
 このくらい大きくあけてて。
 顎が外れると文句をいうのはよした。よほど綺麗にぬぐったものかあまり濡れていなかった。
 あなたは動かなくていい。
 そう言いながら腰と手をつかって頬の内側を擦るように押しつけた。彼の手が俺の鼻と頬をくすぐらないよう叢をおおっている。さっき腕を自由にすると言ったのはこのせいかと想像するとおかしかった。手指と柔毛が湿っているのは汗なのか俺の唾液なのかもうわからない。それはくちのなかをかきまぜるだけでなく反対側の俺の頬も撫でた。それから、目はしっかりと閉じててと囁いて、額をかるく突き目隠しをしている上から瞼まで柔らかな先端を思いがけぬ繊細さではしらせた。額から顎のしたまで彼のものでなぶられて、その息遣いと俺の髪をかきまわす手に気を取られながらも、舌で舐められるのともまた違う感触にふるえた。目が見えたらどうだっただろうと想像するとなんとなしに滑稽な気もしたが、俺はいま、彼の昂ぶりに擦られて喘いでいる。それが悔しくおもえて吐き出した。
 ずいぶんと余裕があるじゃないか。
 目に入ると危ないしと彼が返す。それがこたえなのかといぶかった俺の唇にぐいと押しつける。意地になったわけではないが閉じたままでいると俺の髪をいくらか乱暴にかきまぜながら続けた。あなた眠くてだるそうだったから水浴びる前に自分でした。
 つまり、するつもりはなかった、ということか――そう悟って口をあけた俺の頬を彼が掴んだ。
 さすがにもう入れたいから。
 横になれという意味だとわかった。腕は縛られたままなので横向きに臥す。すると後ろでごそごそと動いていた彼が、逆、と鋭く声をあげた。こっち、という言葉とともに抱き起こされて右肩を下にして倒された。彼も俺も右利きだ。ふだんはこうじゃない。背後で横になったまま、せっかくの月光だものと耳の後ろで言いきった。俺は目隠しをされたままだがなと口にするのはやめた。濡れた指がうしろを確かめている。入れるよと囁きがこめかみに落ちてうなずいた。入る、という感覚とは随分ちがうそれが我が身を襲う。穿たれた先端に息を詰めると、なだめるように尻をまるく撫ぜられた。快感を与えようとするそれでなく労りにみちた手の動きにいくらか呼吸を楽にすると、ここ叩くよと聞こえた。意味を追おうとした俺の耳に皮膚を打つ音が弾けた。思わず強張った背の後ろで彼が低く呻いた。子どもを折檻するように尻を叩かれたと理解するのに間があいた。その空隙に捻じ込まれる。声をあげてすぐ、ぴしゃりと高い音。あと二回たたくねと柔らかな声が念を押す。さすがにそのころには緊張と弛緩をやすやすと操られ挿入を深められているのだと気がついた。だが目隠しをされていては手の動きは見えない。無意識に息を潜めた俺のこめかみに唇が落ちる。構えないで、痛くはないでしょとあやすように言う。ああそのとおり、痛くない。それが余計に腹立たしいのだと言うべきか悩んだ俺の尻を彼が打つ。身を竦め、は、と息を吐いた隙に熱塊が奥へおくへと這入りこむ。顔が見たいと望んだくせに腰を遣われるたび身体は傾ぐ。今ではもう俯せになっている。敷布に頬をつけたまま喘ぐと、四度目の打擲でそのかたちのなにもかもを意識させられた。埋め込まれた楔がひとの血肉だと主張して脈打っている。ただ苦痛だけ受け取っていたときには知らなかった感覚に慄いて、どうして、と思う。いつの間に俺は……。
 多少なりとも気が晴れたのは首筋に彼の汗が滴りおちたのと俺よりもあからさまに息を荒げているのを感じとったせいだ。寄りかかる胸が熱い。ひときわ大きく息を吐いた彼が俺の肘のあたりをそっと掴んだ。
「痺れたり捻ったりしてない?」
 平気だと頷くとしゅるりと衣擦れの音がして戒めを解かれた。汗を吸って重くなった浴衣を両腕から引き抜かれる。ほっとする間もなく、肘を掴んでいた手が手首まで滑る。俺の手を繋がった場所へと押しつけた。
 すべて納まったと言いたいらしい。
 俺の左手はこれ以上なく拡がりきったそこで濡れそぼった下生えをかきわけ、ぬるぬるした液体塗れのゴムの端を感知する。輪にぐるりと指をまわす。卑猥だな。そう声に出してやると、そういう言葉責めしないのと呆れ気味にわらわれた。幾らか声が掠れたのは俺の指が彼のものを擦ったからだろう。受け身ばかりではつまらない。遠慮なく笑ってやった。
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