唐草銀河

「増田愛音の黒歴史ダイアリー」
楽園を追われましたがどうにかやってます。

■ブラホック外しという「イタズラ」をする男子をわたしがやっつけたのだけど……

  いやー、思い出してもなんていうか、なんていうか、だな。うまく言えない。
とりあえず、中原のデリカシーのなさはお墨付きだった。奴はお勉強がよくできてスポーツも得意で、だからこそ自他ともに認める「俺様」で、親しい女友達にあれくらいのことは言ってのける馬鹿たれだ。
でもわたしは、中原には話しが通じると信じてた。仲が良かったからとかそういうんじゃないんだ。
まあ、それはいいや。

あのころわたしが心の底から困ってたのは、ブラホック外しをする男子についてだった。
というのはウソ。
ほんとに対処に困ったのは、繊細で非常に傷つきやすくとてもやさしい(はずの!)女の子たちのほうだった。
あるクラスメイトの女子に、わたしにしか聞こえないような声で「成長の遅れ」を指摘された。まだしてないんだーっていうだけの言葉だったけど、それなりに傷ついた。そう言ったあとに、同じグループの子にそれを話しにいったのを見たから。
なんでそんなことをわざわざ友達に話すんだろう。今をもって、わからない。ただわかるのは、そういうふうにしてその子たちはつながってるってこと。
もちろん、そんな子達ばかりじゃなかった。わたしと仲良しだった沙織(さおり)ちゃん(もうわかってると思うけど仮名)は、わたしより背が小さくて、なのに胸があって、ふわふわってした髪の毛をゆるい三つ編みにしてて、お菓子作りが趣味でふっくらした頬の片えくぼも愛らしくて、つまり、いかにも女の子らしかったのでイタズラの餌食なっていた。

女の子の背後に忍び寄り、ブラのホックを外して逃げ去る意地悪をする男子は田宮(たみや)といった。むろんのこと、仮名だ。けど、彼だけは本名にちかいのを今回は採用してみた。何故かというと、いや、これはまたね。
田宮はおちゃらけているだけで、格別の悪気があるわけじゃないみたいだった。でも、するほうは軽い気持ちでもされたほうはたまらない。男の子たちの笑い声を背中に聞きながら前屈みに胸を抱えるようにしてトイレに行き服を脱いでいちいち直さないとならない。それがどんなに恥ずかしい、嫌なことか、想像できないのだろうと思った。
もっとも、わたしも正確なところはわからなかった。なにしろブラをしていないのだから。しかも、その後もそんなイタズラはされなかった。
まあつまり、ああいうのってさ、相手みてするよね。ズルガシコイ。

それに、ほんとうの敵は田宮じゃなくて、囃(はや)し立てて彼をそそのかす周りの男子たちのほうだった。そこから指令が出てる。奴らはもう身体も大きくて声も太くて自分に力があると誇示したがり、女の子にもてる男子グループだった。
そのせいか、悪戯されても黄色い声をあげて喜んでいるみたいに見える女子もいた。ただ勘違いしないでほしい。あのね、野郎どもに嫌われない、逆らわないほうが生きやすいってことは確実にある。わたしだってそれは知ってる。彼女たちのほんとの気持ちをわたしは知らないし、礼儀正しくそこは追求しない。
でも、沙織ちゃんはおトイレで泣いていた。
許せなかった。

このままにしてはおけないと、じぶんと同じクラス委員長の男の子に話しをした。言いおくれたけどわたし、クラス委員でした。
彼がまたさー、もう仮名すらつける気ないっていうか。だって、注意はするけどってわざわざ言いおいてから、遊びなんだからそのうちおさまる、泣いたりするから余計もりあがるんだって妙に自分は大人だって感じで上から目線で言うんだもん。
なんだその、イタズラされるのは隙があるからだ的な思いやりのない発言は。
て、本人の前では文句たれなかった。
言ってもしょうがないってわかったから。
いい格好はしたいけど、男の子たちから爪弾きにされたくないらしい。そういうのわからなくはないけどさー、カッコ悪くない?
わたしは見切りをつけて、ひとりでどうにかしようと目論んだ。

そのとき何故か、中原の顔が思い浮かんだ。けど、瞬時に追いやった。

中原は世の中を斜にかまえて見る醒めたところがあった。時たまそれが鼻についた。同類嫌悪と言われたら認める、うん。
とくにこれという目立った風貌じゃないのになんとなく一目おかれるタイプ、同級生と遊ぶのはたまたま今一緒だからと思っている節があり、高校からは公立でなく有名私立にいくと公言していた。十も年のはなれたお兄さんがいて、ジャズのレコードを初めて生で聞いたのは中原の部屋だった。
学校の成績や模試の結果はわたしのほうがよかったけど、じぶんよりずっと頭イイんだろうと思わせられるくらい弁はたった。地元の公立中学というのは偏差値や親の収入等でふりわけされず本当に個性のぶつかりあいだから、そのなかで誰も彼も一刀両断にする手腕は見事なものだと感心した。
だから、中原から言ってもらえばそれですむかなあなどと、ちょっと期待したのだ。事前にそんなことがなければ、ねえあのさあと、無邪気に頼んでたかもしれない。
もっとも、面倒くさがりの中原のことだから、なんでおれがそんなことしないとならないんだよ、と返される可能性もあった。
中原は休み時間にみんなでソフトボールをして遊ぶのに場所取りだけして道具を運ばない奴だった。わたしはそういうのが我慢ならなくて、片付けは中原が全部しろと怒鳴ってグラウンドを出たこともある。
業腹(ごうはら)なことに、わたしが中原に意地悪をいったと思ったのかキョトンとする男子もいた。それでも人徳なのか、ちゃんと他の男友達に手伝ってもらい、むくれるわたしの肩をたたいて追い抜き、さっさと校舎に入っていった。わたしだけ後片付けしないやつになったようで余計むかついた。
もちろん中にはわたしが何に腹を立てたのか気づいた男子もいた。けれど、中原相手にはなにも言わなかった。そんなもんだ。
とはいえ他の男子では三年生に脅されるとすぐに場所を譲り渡す可能性が高いのもまた事実で、適材適所といえばそうもいえなくはなく、なんだか得するやつっているんだよなあとため息をついた。
そういう人間を頼りにするよりは自分でなんとかするのが本道だ。
次に他の子がイタズラされた時点でいちど、田宮をこっそりと校舎の影に呼び出した。当時の田宮はわたしよりほんの少し背が高いくらいで、向き合うとその大きな瞳に驚かされた。しかも長い睫毛が綺麗にカールしてた。間近にしてびっくりした。田宮があんなことしてても女子たちにあんまり嫌われてないでいるのはこのせいかと想像した。
田宮はわたしの話しの途中で、増田はブラしてないじゃんと言い返してきた。僻(ひが)んでるという意味だと受け取れた。いや、わたしだって、じぶんのことはよく理解してるつもりだ。
くりかえす。
たいていイタズラされる子はみんな可愛い。さらにはそのタイプは二つに大別される。もうBFがいて派手でススンデル子か、おとなしくて泣いてしまう晩生な子か。沙織ちゃんは後者だった。もちろんわたしはそのどちらでもない。
処置なしだな。
わたしはそうひとりごち、受けが狙いたくてくりかえすなら同じように恥ずかしい目にあえばいいと意を決した。

そして性懲りもなく田宮がその技を披露した直後、わたしは彼のほうへとつかつかと歩み寄りその腕をつかみ、謝りなよと凄んだ。なんだよ、と彼は口を尖らせた。強い声ではなかった。これなら殴られることはなさそうだと踏んだ。目がきょときょとしていた。謝りなよ、と声が上擦らないよう意識してくりかえした。
わたしだってまわりの視線は気になった。でもここまできて甲高い声でヒステリックに声をあげれば取り囲んでいる男子に隙をつかれる。冗談や笑い事ですまされては困るし、弱気をみせて助長することになってはまずい。
田宮がぷいと顔を背けたので握った手に力をこめた。すると、彼がわたしの手を振り払おうと腕をあげた。わたしはその勢いに前のめって椅子に腰をしたたかにぶつけ、その椅子がまた机にぶちあたりながら床に倒れ、けっこう派手な音がした。
教室が静まりかえった。
わたしがもしも転んでいたら、田宮は恐ろしく気まずい思いをしただろう。カッコ悪く地べたに転がらなくてよかったと思うと笑いそうになった。そのくらいのことは考える余裕があった。
わたしは体勢をととのえて一呼吸おいた。それから周りを見渡して、田宮だけじゃなくて見て笑ってるやつも同罪だよ、と口にしてもういちど田宮の顔を見据えた。でも田宮はこちらを見なかった。そのままみんなを押しのけるようにして教室を出ていった。
手をあげられたら蹴り返すつもりでいたし、ブスとかなんとか罵られるくらいは覚悟したのに呆気なかった。
肩を落としたところで、怖ええオンナというささやき声が背中で聞こえたけれど無視した。面と向かって言えないようなら相手にする価値もない。
息を乱して駆け寄ってきた沙織ちゃんに保健室いかなくて平気と聞かれた。べつに大丈夫とこたえながらぶつけた腰骨をさすってあたりを見回すと、中原と目があった。
やつは視線をそらした。
自分が中原に賞賛を期待していたことに気づいたのだが、遅かった。そんなことを彼に求めようとした自分と、目をそらした中原ともに失望した。
いかにも未熟っぽい。
まあ十四歳だから、ね。しょうがない。
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