唐草銀河

王と修道士 【Kyrie eleison】再録

 同日、修道院長から王への手紙――《王国の頭》と《封臣》

 
 同日、修道院長から王への手紙――《王国の頭》と《封臣》

 《王国の頭》たる聖ドニ修道院の長となったわたしには、その《封臣》たる王に《助力と助言》をする義務がございます。
 はじめにお断り申し上げますが、貴方様が御想像されるところのわたしの「本音」とやらが一体どのようなものなのか、わたしには皆目見当がつきません。さらには、誓って申しますが、わたしは若き日に貴方様と戦場を共にした過去を悔いたことは一度もございません。たしかに聖職者でありながら戦争に身を投じたこと、その罪を思わずにいられる日は無きに等しく、酷く我が身を苛みます。また同時に、我が罪を軽くせんがために、あれらがこのフランス王国をより堅固にするために必要な戦(、、、、)であったとも申しません。それでも、我々は《導き手にして保護者なる聖ドニ》の守護の下、この国を守るために戦い、それを生き抜いたのでございます。 
 ところで、ご子息であられる若年王陛下の、剣をとる騎士であるより祈りを捧げる修道士であることを尊ばれるご様子が、他ならぬこのわたしによって培われたものであるようにお考えの貴方様のご憂慮については知らぬふりはいたしません。その心配はわたしのものでもございます。とは申しましても、ルイ七世陛下はしかるべき時になれば、貴方様の御子息らしく王たる勤めをご立派に果たされるものと信じてもいるのです。
 二年前、兄上フィリップ陛下が突如としてご逝去された際、カペー朝の因襲に従って共同王として戴冠された七世陛下の凛々しい御姿は、王たるものの高貴なひかりに照らされておいででした。それまでの、王子殿下でいらしたときの態度とはまるで違ったご様子に感銘を受けたのはわたしだけではないことでしょう。
 さて、貴方様はそろそろ、こうしたわたしの月並みな言葉のくりかえしに苛立ちはじめたころでございましょうな。本題にうつりましょう。
 わたしが、母につきまとっていた貴族の男に懸想され、その男と忌まわしい関係にあった過去を、若年王陛下にお伝えするのは憚られます。何故ならまっすぐな御気性であられる七世陛下には要らぬことと思われますので。
 むろん、貴方様がそれを説明せよと命じておられるわけではないと承知しております。ですが、わたしたちの出会いについて話せと乞われたら、そのことに触れないではすませられません。
 あの当時、貴方様がこのわたしに不愉快の念を抱かれていたのは痛いほど感じておりました。わたしも要らぬことを話し過ぎました。貴方様の優しさに触れ、こころに秘めてきた重石を貴方様に預けてしまったかのようでした。それなのに、結果的には貴方様の救いの手を拒みました。それは、わたしの傲慢という名の弱さであったと今になればわかります。
 重ねて申しますが、貴方様と共に戦ったことを後悔したことは一度もございません。されど、貴方様にあのとき何もかもお話ししてしまった自分の不心得については後悔しております。何よりも、その罪の一端を心ならずも貴方様に担わせてしまった己の無思慮を一番に。
 我が君よ、どうか愚かなわたしの振る舞いをお許しください。
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