唐草銀河

恋人たちの物語~「心臓を食べさせられた奥方」の私的解釈における五つの断章~

*侍女の訴え――城の一室にて

   たしかに、奥方様が飛び降り自殺されたのはお館様の仕打ちのせいに相違ございません。奥方様の秘密の恋人を殺し、その心臓をそれと知らせず奥方様に食べさせたのでございます。

 このたびのお振る舞いでもお察しのとおり、お館様は悪魔のように恐ろしい御仁(ごじん)であらせられます。奥方様は、神の前で愛を誓い合った夫がそのような人物であった不幸をたいそう嘆いておられました。ましてお館様は奥方様よりも三十も御年がうえで、その醜い痘痕(あばた)面には戦で受けた大きな傷もありました。しかも、お館様はあの美しい奥方様の頬を叩くこともあったのでございます。それゆえに、奥方様が詩を捧げられた若い騎士にこころを傾け

ていかれたのも致し方ないことなのかもしれません。

 ともかくも、奥方様は恋人の心臓を猪のものと教えられて召し上がられました。すっかりそれを平らげた奥方様はお館様にそれを知らされ、妾(わたくし)はもうこれ以上なにも口には致しますまいと誓われて窓から身を投げられたのです。長く麗しい金髪がちぢに乱れて庭園の緑に散りました。あれほどにお美しく心気高き奥方様の不幸にわたくしの涙は止まることがありませんでした。まして、奥方様の命を奪った原因の騎士はまだ生きていたのですから。

 あの男です、わたくしは声をかぎりに叫びました。

 あの男が、奥方様に懸想(けそう)して無理やり乱暴しようとしたのでございます! それよりはいっそ、と奥方様は身を投げられました。

 この指の先には、奥方様の亡骸を前に立ち尽くす若き騎士の姿がありました。

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