唐草銀河

恋人たちの物語~「心臓を食べさせられた奥方」の私的解釈における五つの断章~

*領主の繰り言――居室の椅子に腰かけて

   家令よ、我が妹にその息子の心臓を届ける手筈を整えてくれ。

 いや、明日でよい。どうせもう、馬を走らせる時間ではない。

 それから馬上槍試合の宣告を取り下げ、かわりに馬持ちの騎士どもに本物の戦だと申し伝えよ。むろん、それも明日で構わぬ。報奨は弾む。奥(おく)の持参金をすべてこの戦に注ぎこんでよい。

 儂(わし)はもう疲れた……いや、横にはならぬ。

 そなた、もそっとこちらに来い。

 そう、我が足の間へ……ああ、そう、そなたはよく心得ているな。あの姿形(なり)がよいばかりで冷たく権高な奥と違い、儂をよくよく癒してくれる。奥はこんなことはしてくれなんだ。それなのに、あの白い顔を背けて断りながら、儂にはそれを一晩中強請(ねだ)るのだ。

 いや、奥が亡くなって悲しくはない。だがいくらか不思議なのだ。あの気の強い奥が儂の脅しに屈して自ら身を投げたことが。

 儂が食べさせたのは猪の心臓だ。料理人も知っている。むろん、奥は儂の脅し言葉に怒り狂い、気分が悪いと自室にさがった。だが奥は十四歳の甥を誘ったことを否定しなかった。儂は、儂のからだがこんなだから、奥がそれほど飢えているのなら仕方のないことかと考えた。いや、むろん腹は立った。だから儂を役立たずと罵った奥を殴りもした。だが、殺そうとは思わなんだ。あれには子を産んでもらわねばならぬ。そう思っていた。だがもう、こうなってしまってはどうしようもない。

 今さらこんなことを言っても詮方ないが……子供がいないのだから我が領地はどうせ誰のものともわからなくなる。ならば、あの甥にやってもいいと思わなくもなかったのだ。だが、甥は奥の死にもただ茫然とするばかりの意気地なしで、まして武勇の誉れひとつない若造だ。詩など何の役に立つものか、ただ女を喜ばすだけだ。

 家令よ、よく考えてくれた。甥が奥に乱暴したのだと喧伝(けんでん)すれば戦の言い訳もたつ。それで奥が貞操を守って死んだとなれば我が名誉も守られる。そなたは賢いな。

 儂はもうこの一帯の領主であることに飽き足りた。武人としてもうひと花咲かせて野に散りたい。そなたをこの城に迎えて本当によかった。儂に若いころの野心を思い起こさせてくれたそなたに感謝している……。

 ああ、それにしても、そなたの舌遣いはまことにもって素晴らしい。天にも昇る気持ちがする。どれ、儂もそなたのものを舐(ねぶ)ってやろうか。よいのか? なに、忙しい? まあそれもそうだな、明日からは戦の準備だ。

 この城を、よろしく頼む。
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